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Odyssey

岩手の旅 その2 荒川高原

 今回放牧の様子を見せてくれた牧場主のSさん。 もちろん初対面なのに、まるで十年来の友人のような気さくさで話しかけてくる。 都会で暮らしているとまずこういう人に出会うことはない。 それは相手のみならず自分も無意識のうちに壁をつくって相手と向き合ってしまうからなのだろう。 ついついこちらもSさんのあまりにオープンな雰囲気に同化していく。 高原を行き渡る風、佇んでいると次々と体を寄せてくる馬たち。 夢のような時間が過ぎていく。


 天国のような荒川高原。 そんな環境にいるからだろうか、馬たちはみな穏やかな表情をしている。 都会の人間より田舎の人間の方がおおらかなのと同じで、遠野産の馬はおとなしい性格になるという。 ここにいる馬はほとんどが乗用馬なので、いつもは人を乗せて働いている。 仕事が終われば厩舎の狭い馬房で過ごす。 いわば窮屈な日常だからこそ、この放牧地での短い夏は彼らにとって馬本来の姿に戻る貴重な時間なのだろう。
 「一日中見てたって構わないよ」 僕らを残し仕事のため放牧地を後にするSさん。 聞けばさきほど馬たちが柵の木をがしがしかじっていたのはSさんの牧場なのだそうだ。




 この放牧地には小高い丘がいくつかあり、丘と丘の間には雪解け水が流れる小川があり、馬たちにとって天然の水場になっている。 小川を挟んで向こう側の丘の稜線に馬の姿を認め、歩いてそこまで行ってみるとその向こうにはさらに多くの馬たちが群れていた。
 ほどなく馬の生産者のご夫妻が現れ、自分の馬の名を呼んで号令をかけた。 栄養剤が入った特別な餌を与えるためだ。 ところが、ここには他所の生産者の馬もたくさん放牧されているので、号令をかけると他所の馬もつられて集まってしまう。 旦那さんが他所の馬を追い払いながら奥さんが餌を与えようとするのだが、なかなか思うようにはいかない。


 いつまでもこの場所で馬たちと戯れていたい。 そんな思いに後ろ髪を引かれながらも次なる目的地である「遠野馬の里」へ向かうために高原を後にすることにした。 馬たちにさよならを言い、丘を下り、小川を渡り、ふたたび丘を登る。 何頭かの馬が僕らの後をついてくる。 次第にそれは20頭ほどの単縦陣となり丘を登る道に連なっていく。 彼らは結局クルマを停めた放牧地の入り口まで僕らを見送ってくれた。
 馬たちはこのまま短い夏をこの地で暮らす。 昼も夜も、雨が降ろうが風が吹こうがここで自然とともにある。 人間にこの自然を穢す権利はない。

岩手の旅 2012夏 荒川高原再訪

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