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Odyssey

岩手の旅 復興支援編 その6 語り部

土淵村の助役北川清という人の家は字火石にあり。 代々の山臥にて祖父は正福院といい、学者にて著作多く、村のために尽したる人なり。 清の弟に福二という人は海岸の田の浜へ婿に行きたるが、先年の大海嘯に遭いて妻と子とを失い、生き残りたる二人の子と共に元の屋敷の地に小屋を掛けて一年ばかりありき。 夏の初めの月夜に便所に起き出でしが、遠く離れたる所にありて行く道も浪の打つ渚なり。 霧の布きたる夜なりしが、その霧の中より男女二人の者の近よるを見れば、女はまさしく亡くなりしわが妻なり。 思わずその跡をつけて、遥々と船越村の方へ行く崎の洞ある所まで追い行き、名を呼びたるに、振り返りてにこと笑いたり。 男はとみればこれも同じ里の者にて海嘯の難に死せし者なり。 自分が婿に入りし以前に互いに深く心を通わせたりと聞きし男なり。 今はこの人と夫婦になりてありというに、子供は可愛くはないのかといえば、女は少しく顔の色を変えて泣きたり。 死したる人と物言うとは思われずして、悲しく情なくなりたれば足元を見てありし間に、男女は再び足早にそこを立ち退きて、小浦へ行く道の山陰を廻り見えずなりたり。 追いかけて見たりしがふと死したる者なりしと心付き、夜明けまで道中に立ちて考え、朝になりて帰りたり。 その後久しく煩いたりといえり。(遠野物語99話/柳田国男)

 二日目の夜、ボランティアの人たちのために遠野まごころネットが企画してくれている「温泉+夕食ツアー」に参加してみた。 震災直後から被災者の皆さんに入浴の場を提供していた水光園という地元の温泉施設でお風呂に入り、その後伝承園という施設で郷土料理をいただくツアーである。 ちなみに費用は1,470円で、前日の夜までに予約表に名前を書いておくと翌日の夕方6時に水光園の社長さんがマイクロバスで迎えに来てくれる。
 水光園のトロン温泉を満喫した後、ふたたびマイクロバスに乗り伝承園へ。 この伝承園に着いて初めて知ったのだが、食事の後には参加者みんなが囲炉裏端に座り、語り部の店員さんがこの地方の民話を語ってくれるのだ。 この日の参加者は9名。 本編に入る前に語り部の方が紹介してくれたのが遠野物語において明治29年の三陸大津波に触れたエピソードである99話である。 この伝承園があるのがこの話に出てくる土淵村。 そして柳田国男に民話の数々を口述し遠野物語を編纂させるに至らせた佐々木喜善もこの土淵村の出身である。 あの震災から五ヶ月。 東北各地の沿岸部では今まさにこの民話のような光景が繰り返されているのかも知れない。
 遠野物語は伝承世界の話だが、すべて実際の土地と繋がっている。 それを単なるファンタジーとして扱うようになってしまった近代の日本人。 もしその「断層」が今回の震災の被害を甚大なものにしてしまっていたとしたら・・・。
 オシラサマやザシキワラシの民話の中に巧みに隠蔽されている真理に心を留められる日本人でありたい。 そして今度は我々こそが語り部となり、この出来事を少しも希釈することなく後世へと伝えていかなければならない。 そのためにもひとりでも多くの人にこの地に足を運んでもらいたいと思う。 民話の多くがそうであったように、人は実際に体験したことでないと語り伝えることはできないと思うから。

 翌日、遠野駅前から池袋駅西口に向かう夜行バスでこの日の温泉+夕食ツアーに参加したメンバーのうち3人と一緒になった。 一人は会社経営者の女性、一人は主婦、一人は学生だった。 関東圏から来ている人は多い。 僕が言葉を交わした人の半分以上がそうだった。 また時間をつくって遠野に行こうと思う。


 

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