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Books

入浴本

 入浴中に読む本のことではない。 入浴中に睡魔に襲われ、不覚にも手に持っていた本を湯船の中に浸してしまう、文字通り「入浴させてしまった」本のことを指す。
 大抵は未遂に終わる。 うつらうつらして次第に両の手が下がる。 湯船に浸かる寸前で我に返り慌てて両手を持ち上げる。 この症状がでた時には本を読むことを中断するのが賢明だが、それを面倒くさがるとたちどころに入浴本の誕生である。
 だがこのうつらうつらの時間ほど気持ちいいものもない。 そしてそれは本を持たずに湯船に浸かっている時には決して訪れない時間なのだ。 然るにこの至福のときを演出してくれる本選びというものが非常に重要なファクターになってくる。 面白すぎてもいけない。 かといって凡庸すぎてもだめだ。 前者は睡魔どころではなくなるし、後者は通読する気力そのものが失せる。 ほどほどに読み応えがあり、そしてまた文学的には駄作の域をでないぐらいのものがちょうどいい。 これまでの実験では堂場瞬一の「刑事・鳴沢了シリーズ」あたりがちょうどこの基準に合致する。
 今回入浴本の仲間入りをしてしまったディック・フランシスの「大穴」はもちろんこれに当てはまるものではない。 しかしその日の僕は昼間の労働で肉体的疲労の極にあった。 その瞬間、反射的に手を持ち上げたので文庫本の下部が微かに着水した程度の「入浴」だったが、もうこれでこの名作を古本市場に還流させることは不可能になった。
 ところで、ディック・フランシスほど二毛作人生を全うした人はそう多くはないだろう。 1957年に37歳で障害騎手を引退するまでに通算350勝を挙げ、その後新聞記者を経て推理作家としても大成し一昨年に89歳で亡くなるまでに数多の名作を遺した。 日本流に言えばまさに文武両道を地で行く人生だが、日々肉体労働に勤しむ自分にとっては本当に理想的な生涯に思える。 歳を重ねてからは多少なりとも頭脳労働にシフトできるようにしたいものである。 これ以上入浴本を生産しないためにも。 
 

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