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Critique

伽藍とバザール

 オウム真理教「最後の逃亡者」であった高橋克也が地下鉄サリン事件から17年の歳月を経て逮捕された。 あの日のことは今でも鮮明に覚えている。 もちろん誰だってそうだろう。 とりわけ僕のように事件当時東京にいた人間ならなおさらだ。
 1995年(平成7年)春当時、僕は阪神大震災の当日に面接を受けて働くことになった下北沢の輸入家具店で家具の修復や配送の仕事をしており、事件当日の3月20日午前10時頃は中野のお客さんが購入した家具を配達しているところだった。 社長のランクルで山手通りを走っているとちょうど中野坂上駅の地上出入口付近に救急車が停まっていた。 その朝、家を出る前にテレビが「地下鉄で爆弾が爆発か?」と報じていたので、救急車の横を通り過ぎながら「被害がこちらにも及んでいるのか?」と思ったが、それがあの地下鉄サリン事件によるものだった。
 長きに渡って何ら進展がなかった本件は昨年の大晦日に残る3名のオウム特別手配犯の一人である平田信が出頭したことが端緒となり再び動き始めた。 6月3日に目撃情報から菊地直子容疑者が突然逮捕された。 菊地直子容疑者の潜伏先を通報したのは同棲していた高橋寛人容疑者の兄だという。 菊池逮捕から連鎖的に高橋克也の居所も割れ、6月15日に逮捕されるに至った。
 菊池直子の内縁の夫状態にあった高橋寛人は高橋克也が潜伏していたアパートからカネを盗み、挙句はその弱みにつけ込んで恐喝しカネを出させていたという。 そんな弟を警察にタレ込んで一攫千金を目論む兄。 今どき火曜サスペンス劇場でもなかなかお目にかかれぬクズどものベタな転落劇である。 人間のクズがクズを呼び、そのクズがまた別のクズを引き寄せる。 まさにクズの吹き溜まりだ。 四流の脚本家でもこういう台本はなかなか書けないだろう。

 高橋克也ゆすり取られた逃走資金!菊地直子同棲男に「お前逃亡犯だろ、カネ出せ」 : J-CASTテレビウォッチ
 菊地直子逮捕 懸賞金1000万円もらえない通報者 : ゲンダイネット
 【高橋克也容疑者逮捕】「カネを脅し取られた」寛人容疑者に300万円 金銭トラブルか+(1/2ページ) – MSN産経ニュース

 そんなどーしようもない連中が長年の逃亡劇の末にめでたく逮捕され、あとは知ってることを洗いざらいゲロさせて、「振り込め詐欺以上の犯罪は全部死刑」が持論の僕からすれば当然すぐに死刑判決を出してもらい、一連のオウム事件の被害者とそのご家族の方々の目の黒いうちに可及的速やかに死刑を執行して欲しいと思うだけなのだが、世の中にはおかしな人もたくさんいるようで、菊地直子が高橋寛人から指輪を贈られていた(原資は高橋克也から盗んだカネか?)とかウェディングドレス(以下同文)姿で写真を撮っていたなどの事実が明らかにされると、「長い逃亡生活を送るなかで彼女はもう罪を償ったのではないか?」とか「ほんの一時でも人の優しさに触れられて良かったね」などと意味不明なことを言い出す始末。 どうしてこういう人たちは17年間も逃げ回って遊び呆けて自由を謳歌しまくっていたテロリストに同情できるのだろうか? そういう連中こそ地下鉄サリン事件で霞ヶ関駅助役だった夫を殺された高橋シズヱさんが高橋容疑者逮捕の報に接して発した「誰よりも悪人だと思っている」という言葉の重みを今一度心に刻むべきだと思う。

 【高橋克也容疑者逮捕】「誰よりも悪人」逃走犯らに強い憤り 高橋シズヱさん会見 +(1/2ページ) – MSN産経ニュース

 実際、自らもオウムに殺されかけた江川紹子とか有田“スターリン”芳生も同様の発言をし、やはりオウムに殺されかけた滝本弁護士に至っては平田信と菊地直子(菊池の意向で解任された)の弁護を引き受ける始末。 一連の事件に介入し過ぎたがゆえに時間の経過とともに犯罪との適切な距離感を逸した彼らはある意味ストックホルム症候群的なものに冒されているとしか思えないのだが、ご本人たちはお気づきでないのかも知れない。
 警察が逮捕直後の菊池直子の写真を公開した時に「単なる見せしめだ」とか「これだけ別人のようだから捕まえられませんでしたと言い訳するために発表してるとしか思えない」というようなことを言う人もいた。 世の中には常軌を逸した思考の持ち主があまねく存在するものである。
 警察が容疑者を逮捕後にその現在の姿を写真で公開するのは通常のことであり、それを公開することで新たに一般から寄せられた情報と本人の供述から得られた情報を突き合わせ、それまでの逃走経路を解明し、これまでの自分たちの捜査を検証することで将来の捜査に活かそうとするもの。 それが17年もの長きに渡って逃亡していた特別手配犯となれば言わずもがなである。 警察はこれから特別手配犯3人の「十七歳の逃亡地図」を作成することになる。
 ところで今回の高橋克也の逮捕劇を見るにつけ「伽藍とバザール」という論文を思い出した。 1997年にエリック・レイモンドによって書かれたオープンソースのソフトウェア開発に関するものだが、要約すると、ソフトウェア開発において「階層的な組織を有する特定のエンジニアたちだけで開発が進められ、経過は非公開で完成するまで一般には公開しない」伽藍方式と、「不特定多数の人間がフラットな関係性の中で開発に携わり、その開発の過程もすべて一般に公開する」バザール方式があり、主にLinuxの開発以降オープンソースのソフトウェア開発の主流となったバザール方式について書かれている。
 様式や権威を象徴する伽藍(カテドラル)とその対極にあるバザール(市場)。 菊池直子の逮捕の直後、あと一歩のところで高橋克也を取り逃がした警察は、そのプライドをかなぐり捨て情報をすべて一般市民に託した。 時々刻々入ってくる防犯カメラ映像、似顔絵、足取り、筆跡などをリアルタイムで矢継ぎ早に公開することで広く一般に情報提供を求め、高橋容疑者を心理的に追い詰めていった。 それによって旧来の捜査手法では辿り着くことができなかった同容疑者に肉薄していったのだった。
 無論、高橋逮捕のその時においても一度は容疑者を見過ごしそうになるなど、平田被告の出頭時に交番で門前払いした時のように警察の「警察力」は全能どころか無能と揶揄されても仕方がない状況だった。 だからこそ今回のような「バザール方式」での捜査が特別手配犯の逮捕という結果に至ったことの意味は大きい。 今回の高橋克也容疑者の逮捕は、後に振り返った時に警察の捜査手法が大きく変遷するエポックとなるのではないだろうか。

 
伽藍とバザール (The Cathedral and the Bazar) Eric S. Raymond 山形浩生訳

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