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深層域としての熊野

熊野本宮大社にあった神社本庁のポスター

熊野本宮大社にあった神社本庁のポスター

 昨年に続いて熊野学フォーラムに参加した。 南方熊楠を契機として実際に熊野に赴き、あらためて熊野という地域にひどく惹かれたからである。 なぜなのかは自分でもよくわからない。
 4人のパネラーの一人、脳科学者の茂木健一郎氏は他のパネラーに変に気を使ったのか道化役に徹し、たいして中身のない話に終始していたが、ひとつだけ興味深いことを口にした。 脳には古層というべき部位があり、我々が現代の都市において日常生活を送るなかではそうした古い層はまったく使っていないのだという。 一般的に人間は脳のもつ潜在能力の数パーセントしか使っていないというが、人間の脳には太古からの経験が地層のように堆積しており、現代人はその極めて表層部分のみを使って生きているということだろうか。
 宗教学者で司馬遼太郎好きの山折哲雄氏はポリネシアに端を発する黒潮文化圏に属している日本の太平洋側の地域(南九州、四国、紀州など)には旧弊に囚われない進取の気風に富み、故にそれらの地域の若衆宿が改革者たる人材を多く輩出してきたとの自説を披露していた。 薩摩の西郷隆盛、土佐の坂本龍馬、そして淡路の高田屋嘉兵衛・・・。 さらに今回のフォーラムが和歌山県新宮市の主催であったことを意識してか大逆事件大石誠之助についても触れた。
 また、同氏が最後に「日本列島の三層構造」について話した内容は興味深かった。 要約すると次のようなものだった。

 上空3000mから日本列島を俯瞰すると大海原と山また山、日本は海洋国家でありそれと等しく山岳国家である。 しかしこれは「高さのトリック」であり、上空1000mまで高度を下げると大平野に広がる水田地帯、すなわち稲作農耕社会の景観が見えてくる。 さらに高度を数百メートルまで下げると工場や都市といった近代都市の様相が見えてくる。
 一番深層の部分に海洋山岳国家が存在し、それが日本列島の基礎を成しており、そのうえに農耕社会の価値観や世界観が積み重なっている。 さらにその「首から上のちょこっとしたところ」に近代社会の価値観や世界観が「乗っかっている」。
 この自然災害が頻発する世界でも稀な国に生き続けてきた人々は、危機的な状況に対処するために、この三つの価値観・人生観というものをその時々に応じて柔軟に引き出してくることによって生き抜いてきた。 そしてこの三層構造のなかで最も重要なのが一番深層にある海洋山岳社会の価値観であり、それはちょうど茂木氏のいう脳の古層と関係があるのかも知れない。 そうした三層構造を最も深いところで支えている文化を今なおとどめるのが熊野である。

 熊野のみならず単身山深くに分け入った時に少なからず五感が研ぎ澄まされていく感覚は誰でも自覚するものだが、それはたぶん人間が太古の昔に脳に織り込んだ古い皮質に電気的な刺激を与えることと同義なのだろう。 古層とまでいかなくても脳のいつも使っていない領域が知覚している感覚は少なからずある。
 また、こうした深層を垣間見るためにはそのものに物理的に近づくために深層深く潜ればいいと考えがちだが、時には逆に距離をおいて俯瞰的な視点を獲得すべきであるというテーゼ。 対象を理解するには適切な距離というものがある、と。 人間関係に置き換えてみても同じことが言えそうだ。
 まだ僕は熊野に残存する日本人の古層にようやく少し触れたに過ぎないが、触れたことでさらにその探究心を掻き立てられている。 それは自分が日本人だからだろう。 熊野、そして何より日本人は不思議だ。 日本人とはいったい何なのだろう?

USTREAM: 第6回 熊野学フォーラム 「熊野VS.科学 ふるえる脳を救うもの」

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