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Food & Drink

桶買いの酒

130301a 用賀に事務所を移転して半年。 事務所の近くに気になる佇まいの店がある。 それでもクルマで通りすがりにちらっと見るだけだったのでそこが一体何の店なのかさえ確かめようともしなかった。 その店の正体を知ったのはつい先日。 妻が店の中に入ったことのある知り合いから聞いたという。 そこは酒屋であった。 しかしその店構えはいわゆる酒屋のイメージではない。 桜新町で食事をした帰りに立ち寄ってみた。
 「酒舗油屋」と書かれた暖簾をくぐる。 店内は一見すると酒屋には見えない。 作家ものの作品が並べられた和陶器のギャラリーといった趣きである。 しかし要所要所に日本酒やワインがディスプレイされている。 スーツ姿の若い店主は六代目。 江戸時代からここで店をやっているという。 近衛兵だったという先々代の馬上の写真と彫像に見入ってしまう。
 基本的には卸問屋。 ただし僕らのような一般客も相手にする。 店内の酒の量は一見少ないが、利き酒師でもある店主が客の食べる料理などを訊き、それに合う酒を奥の蔵から出してきてくれる。 おそらくは江戸時代のものと思われる欅(けやき)の一枚板の扉は幅、高さともに3mほどはあろうか。 昔は馬車が蔵に出入りしていたのでこうした巨大な扉が必要だったという。 日本のものとは思えないプリミティヴな装飾はどこかインド的な雰囲気を醸し出している。
 やがて僕がお願いした魚料理に合う日本酒が三本、四合瓶で目の前に置かれ、それぞれ小さなガラスの酒器に入れて利き酒をさせてくれた。 三者三様、それぞれまったく異なるキャラクターを持った酒。 あらためて日本酒というのは奥が深い。
130301b 一番辛口の酒を選んだ。 店主は四合瓶を新聞紙でくるみ、くるんだ新聞紙に毛筆で分類と銘柄をしたため落款を押してくれる。 その間店主は興味深い話をしてくれた。 東北の酒の話になったのだが、僕が好きな東北の酒を言うと、その酒は震災後に全国から寄せられた特需が多すぎて需要に供給が追いつかなくなり、「桶買い」をやっちゃったと。 桶買いとは原料や製法、酒質や味が近い原酒を他所から仕入れて自分のところの酒として売ること。 とはいえ酒の流通の世界において桶買いは非合法なものではなくわりと一般的に行われていることのようだが、店主の話のニュアンスからは一度でもこれをやっちゃうと自分の客には勧められなくなる・・・という感じが伝わってくるのであった。
 こうした古い慣習は酒が日本中で大量に消費されていた時代の名残りなのだろう。 日本酒の国内消費量が減少傾向にあるなかで各々の蔵元は生き残りをかけたブランディングに余念がなく、その結果銘柄は増え、よく言えば百花繚乱、悪く言えば乱立傾向。 そんななかで海外の市場へと目を向けているメーカーも少なくない。 実際日本酒は海外市場で大きな成長が期待できる分野だと思う。 ワインにも匹敵する奥深い日本酒文化を我々日本人だけのものにしておくのは狭量というものだろう。 そんな海外進出のためにもこうした慣習を極力廃し、最終消費者目線でのトレーサビリティを確立しておくことが重要になると思われる。
 僕なんかも震災以降何度か東北に足を運んで地元の酒を飲んだりしてるので、或いは知らずに桶買いの酒を飲んでいたのかも知れない。 美人だと思って付き合ってたら整形美人だったみたいな。 世の中には知らないほうが幸せなことも結構ある。
 

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