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ツバメ保護顛末記

130520a 先日、自宅のある集合住宅のエントランスホールに入った時のこと。 いつもと同じ空間。 通り過ぎようとした瞬間、視界の端に何か黒い物が像を結んだ。 自分の部屋の方に向いていた僕は踵を返し物体に近づく。 ゴミ? しゃがんで凝視する。 鳥・・・の置物? 指先を近づけてみる。 あっ、飛んだ。 ツバメ? このホールに至る前には玄関のオートロックを解除する前室もあるのだが、ツバメは一体どうやってその更に内側のエントランスホールに入り込んでしまったのだろう?
 力なく離陸したツバメはたった今僕が通ってきたエントランスのガラスにぶつかって直下に不時着。 心配になって拾おうとするとまたもや離陸。 今度はホールの反対側のガラスに接触してふたたび不時着。 怖がっているのだろうと思い、今度はそっと近づいてしばらく様子を観察。 自分なりに敵意のないことを示しながらジリジリと距離を詰めてようやく捕獲。 手の中に収まったツバメ。 やはり衰弱しているようだ。
 気がつくともう日が暮れて辺りは暗い。 ここは一晩保護し、明日明るくなってから放してやろうと決心。 ひとまずツバメを部屋にあるアクリル製の飼育箱に入れ、餌を準備することに。 こうした場合、最低限の糖分とビタミンの補給用としてポカリスエットなどを与えると良いということは知っていたのだが、肉食のツバメは僕が自宅で飼っているセキセイインコが食べるような穀類の餌は受けつけない。 インターネットで検察してみると「非常用」としてドッグフードをすりつぶしたものが良いとあったので近所のスーパーで購入しポカリスエットと一緒に与えてみるものの食べる気配すらない。 急激な環境の変化に戸惑っているのだろうからしばらく放置して様子を見ることにした。
 そうこうしているうちに急遽電話で頼んだ「出先からの帰路にツバメの餌となるミルワーム(イモ虫)の緊急購入」という困難なミッションを完全に無視して帰宅し、部屋に入るや否や「まだいるの?!」と呆れ顔の妻。 北朝鮮なみに無慈悲な彼女はもう夜だというのに逃がしてやるよう強硬に主張。 「夜に飛べる鳥なんていないよ!」と抵抗するも、母親のツバメだったら近くの巣に餌を待ってる雛がいるかも知れないし、もしかしたら外に持ち出せばちゃんと飛んでくれるかも知れない、とあれこれ考えた末、中庭に出て一か八かの放鳥を試みた。 だがやはりツバメはふらふらと力なく飛んですぐに不時着。 その時ちょうど隣家との塀の向こうから近所の野良猫の「にゃおおおおおん」という鳴き声。 いつもなら脳天気なその声もこの時ばかりは不気味に聞こえた。 猫の餌になるツバメのイメージを僕と同時に共有したのか、事ここに至って妻もようやくツバメを一晩保護することに同意してくれ、ふたたび手の中に収めたツバメを飼育箱に入れ部屋に戻った。
 こうなったらせめて少しでも何か食べて元気になって欲しい。 何も食べる気配のないツバメに強制給餌を試みたが、うまく嘴が開いてくれない。 インコと違って加減がわからないのでツバメに無用なストレスを与えると判断、強制給餌は諦めポカリスエットを口元に持っていくとようやく少し飲んでくれた。 そして小さな声で少し鳴いた。 自分の部屋に響き渡るツバメの鳴き声。 帰宅してから食事を摂るのも忘れて世話をしていた僕らがようやく少し安堵した瞬間だった。

 ネットで検索し、自宅からちょうど多摩川を挟んだ向こう側の川崎市中原区にある「馬場総合動物病院」を探し当てた。 いつも自分のインコを診てもらっている豪徳寺のリトルバードは野生の鳥の持ち込みを受け付けていなかったからだ。 24時間対応の番号に電話して明朝一番に予約を入れアドバイスを求めたところ、衰弱している時は保温した方が良いとのこと。 時期的に暖かくなってスイッチを切っていたインコ用のペットヒーターをツバメの飼育箱そばに設置。 この頃になるとツバメはもう眠いのか目を閉じて眠っているようだった。 もちろんこちらは心配なので時折寝てる「だけ」なのか確認したりして一夜を過ごした。

 翌朝、ツバメは大丈夫そうだった。 ポカリスエットもまた少し飲んでくれたようで、カップの水位が下がっていた。 自宅から第三京浜経由で病院まで約15分、後部座席のツバメはどこか落ち着かない様子。 馬場総合動物病院の院長先生は湾岸戦争の時に流出した原油で油まみれになった水鳥の救出から3・11の被災野生動物やペットの救護や診療、里親探しまでやっておられるお方。 壁には院長先生を取り上げた新聞記事の切り抜きなどが所狭しと貼られている。 病院は別棟で傷病野生動物のリハビリ施設も併設していた。 そんな獣医さんの病院が近くにあることなんてまったく知らなかった。 ツバメがとりもつ縁もある。
 診察の結果、幸いなことに外傷も見られず、たぶん飛行中にガラスに激突して脳震盪になり、そのままふらふらと建物内に迷い込んでしまったのではないかとのこと。 野生復帰のためにもできるだけ病院には留め置かず、自分で食事ができるようになったらなるべく早く放鳥するとの方針を伝えられた。 ようやく保護者の責任から解放されて安堵感を覚えたが、同時に少々寂しくもあるツバメとの別れだった。 ちなみに病院には診察代ではなく寄付金として少額を納めた。

 翌日、あのツバメは近くに帰るべき巣があってそこにはたくさんの雛が待っているのではないかという心配がどうしても捨て切れず、自宅そばを飛んでいくツバメを見つけては後を追い、巣の場所を特定しようと試みたが、結局自宅近くに巣を見つけることはできなかった。 つがいで雛を育てるツバメ。 あの子が仮に親だったとしても片親が雛の面倒を見ているに違いない。 そう言い聞かせながらも、帰宅時にツバメがいた辺りの床面を確認する癖がついてしまった。
 ツバメを預けてから三日後、病院から連絡があり、今朝多摩川べりで無事ツバメを放鳥したとの報告をもらった。 多摩川沿いにはツバメの集団ねぐらもあるという。 放鳥にはもってこいの場所で良かった。 一旦は川崎市に転籍したツバメもこれならすぐに元の世田谷区に戻って来られるだろう。 いやひょっとしたらもう既に戻って来ているのかも知れない。
 ツバメからすれば悪夢のような数日間だったであろう。 それでももし僕を覚えていて、空からそのマヌケ面を見つけたら、たとえそれが怨嗟の言葉でもいい。 あの愛らしい鳴き声を、今度はとびきり元気な声で聞かせてくれ。 あと、ガラスには気をつけてな!
 

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