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Odyssey

南相馬エクスペリメント

 相馬野馬追に行ってきた。 本来なら2011年に行く予定だったものの、震災で今年にずれ込んだのだ。 クルマで行こうかとも思ったが、原発事故の影響で現地は通行止めの道路もかなりあるだろうし、そんな場所に土地勘のない人間がのこのこ行っても迷惑になるだけだと思い、JRが主催する新幹線と貸切バスを乗り継ぐ日帰りツアーに申し込んだのだった。 ちなみに東京都の「被災地応援ツアー」として一人あたり1500円が助成されるという。
 福島駅で下車するのは初めて。 そこからバスで南相馬の原町区にある相馬野馬追祭場地へ向かう。 所要時間は約2時間半。 途中だだっ広い草原が見渡す限り広がる牧歌的な風景に出くわした。 「なんでこんな場所に何もない草原が広がっているのだろう?」と思った次の瞬間にすべてを理解した。 そこはかつて水田が広がっていたであろう場所だった。 ちょうどこの時期なら青々とした稲穂が風に揺れているはずの場所はすっかり雑草に駆逐され、見かけだけは緑一面の景色に変わり果てていた。 気がつけば人家に人の気配はなく、街道沿いの建物はすべてシャッターを下ろしている。 役場のような建物の敷地内に2台のパトカーが駐車してあるが、そこにも警官の姿はない。 帰還困難地域へと続く道の入口にはマスク姿の二人の警備員が立って通行を遮断している。 除染作業で出たと思われる汚染土が積み上げられた区画がある。 そこが飯舘村だった。 バスは川俣町から飯舘村の居住制限区域内を通って南相馬へと向かっている。
 人が存在しない風景というのは奇妙なものだ。 人を寄せつけない前人未到の大自然ならともかく、そこにはアスファルトで舗装された道があり、信号があり、商店があり人家があるのだ。 飯舘村の風景は主要なピースを失ったジグソーパズルのように不完全であり、そのことで現実感を喪失していた。 すべては原発事故によるものだ。 この風景は原発についての立場に関係なくすべての日本人が実際に見ておかなければならないものだと思った。 もっとも放射脳な方々が飯舘村に入ることはそれ自体困難を極めるだろうが。

 バスが南相馬に入る。 すると突然対向車線に甲冑姿の騎馬武者が次々と現れる。 その後方ではクルマの車列が渋滞中。 英国ニューマーケット以来の「Horse First」な街。 祭場地まで馬運車で運ばれてくる馬もあれば、近隣からだと単騎で一般道を闊歩してくる馬もある。 大袈裟に言うならそこだけは時空が歪み、現代と戦国時代がコンフリクトする異空間が生まれていた。
 ここ数日、東北地方は大気が不安定で各所で集中豪雨に見舞われていた。 今朝東京を発つ時ですら福島の天気予報は雨だった。 しかしながら実際現地に着いてみると曇ってはいるものの雨が降る気配はなく時おり雲間から強烈な日差しに見舞われるほど。 最初は指定された観覧席で観ていた僕らも暑さに耐え切れずに木陰を求めて端っこの方に避難する有様。 雨対策を十分にしてきたが心配は杞憂だった。
130801a130801c 甲冑競馬は迫力があった。 落馬して救急車で運ばれる武者、放馬され係員の制止を振りきって暴走する馬。 当然のこととはいえヘルメットなしで重い甲冑を背負い、旗差物をはためかせて騎乗するというのはそう簡単なことではない。 一方で神旗争奪戦は思っていたほどの迫力はなかった。 馬事公苑で縮小版を観ていたせいもあるが、なにせ頭数が多いので、頭上から落ちてくる神旗の直下に入るのが遅れた人馬はやや遠巻きに競り合いを傍観している感じなのである。 ちょうどプロ野球の優勝監督が胴上げされる時、選手の輪の中心にいて実際に監督の体を放り上げている選手と、その外周にいて上げるフリだけしている選手、そのまた更に外側で監督ではなく観客席に向かって万歳している選手がいるのと同様に、旗の落下地点から放射状に急速に熱が冷めていくのである。 競技の構造上どうしようもないことではあるし、300騎すべてが本気で神旗を奪い合うガチンコの乱戦になれば死人も出るに違いないとはいえ、一騎当千の兵どももその多くはオブザーバーのように見えた。
130801e 午後2時過ぎ、短い祭場地での滞在を終えて早くも帰路に着く。 日帰りツアーは過酷だ。 交通規制のためかバスは往路とは違う道へ。 しばらくすると海岸線を走る道路に出た。 東北電力原町火力発電所が見える。 このあたりも津波で壊滅的な被害を受けた地域だが、瓦礫等は既に撤去されて一見整然としている。 やはり手付かずの休耕田は雑草の無法地帯となっており、その異様な静けさが痛々しい。 しかしながらバスが福島第一原発から少しづつ遠ざかるように北に向かい相馬市に入ると人の手の入った水田が散見され、同時に住民の方々の姿も目につくようになる。
 やがてバスは山間部へ入り、霊山(りょうぜん)パーキングにてトイレ休憩。 現代に突如現れた戦国時代の騎馬武者たち。 未だ高い空間線量のために人を寄せつけず時が止まってしまった街。 バスから降り地面を踏みしめたことでようやく何かに仕組まれたかのような虚構の世界から現実の世界へと舞い戻ったような気がした。 老若男女が乗り合わせた貸切バスは虚実が入り混じる不可思議な世界を彷徨った末にスタート地点だった福島駅西口に戻った。
 南相馬への日帰り旅行はあっという間に終わった。 そのことが今日一日見た現実の世界を何か壮大なフィクションであったかのように感じさせた。 福島駅を午後8時54分に発ったやまびこ222号はタイムトンネルのような闇夜のなかを東京へとひた走る。 戦国時代、2011年と気まぐれな時を刻んでいた時計の針が西暦2013年の夏に戻っていく。 またいつもの日常が始まる。
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