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Odyssey,

故郷の海と山


 日本人なら誰しも故郷の山がある。 僕にとってのそれは立花山と三日月山だ。 今回福岡に帰った際に三十数年ぶりに登ってみることにした。 早朝便で福岡に着いたのでホテルのチェックインまで時間を潰す必要に迫られたから、というのが一応の理由だ。
 博多駅そばのホテルに荷物を預け、持参した小さなザックだけを背に地下鉄に乗る。 PASMOが福岡でも使えるようになったのでとても便利だ。 西鉄貝塚線(旧宮地獄線)に乗り換え、香椎花園前駅で電車を降り、かつて暮らした町を散策した。 海沿いを歩き、岬の公園へ行き、よくおつかいに行ったスーパーや友達と遊んだ駄菓子屋があった場所を通り、先祖の氏神様が祀られる神社に立ち寄り、数時間かけて登山口に向かう。 が、かつて野山だったところが造成されて宅地になっていたりして目の前の景色が記憶のそれと一致しない。 何度か道に迷いながら見覚えのある登山口に辿り着くまで思いのほか時間を要した。
140416a 久しぶりの故郷の山は子供の頃の記憶とはやはり全然違っていた。 当時見えていた景色と今のそれはまったく別物だった。 同じ登山道を歩いても今は樹木や下草の種類などの植生や地形に目がいくが、子供の頃はそれらに興味が向くことはまったくなかった。 むしろそうしたものすべてを天然のアスレチックとして捉えていたような印象だ。 そしてそれらのタスクをこなした先に「ご褒美としての」登頂やお弁当が待っている、といった位置づけである。 もとよりネイチャリストとしての資質は欠いていた少年期だった。
140416b この山域はクスノキの原生林の北限だそうで、日頃丹沢あたりを徘徊している身にはそうした人の手の入っていない天然林は十分に新鮮だった。 立花山は標高にして367mと超低山だが、低山病の僕にはおあつらえむき。 本来なら山頂から福岡市から糸島半島、玄界灘までも一望できるのだが、目の前の大パノラマは春霞の中。 もっとも実際は春霞なんて詩的なものではなく中国からの各種汚染物質がその主要な構成要素である。 「山の澄み切った空気」などというステレオタイプは残念ながらここには存在せず、ともすれば深呼吸するのも躊躇いがちになる。 本当に残念なことだ。
140416c 眼下にうっすらと見えるアイランドシティと名付けられた埋立地は僕の記憶の海岸線を容赦なく破壊した。 かつての実家は徒歩で海まで15分、山まで50分ぐらいの場所にあり、海と山のいずれもがプレイグラウンドだったのだが、子供の頃に遊んだ磯の風景は激変していた。 それは山のような記憶の心象と眼前の現象の違いなどではなく、はっきりとした物理的な変化であった。 山に登る前に海岸線を歩いてきたのだが、その変わりようにしばし立ち尽くすほどだった。 この北側には渡り鳥の越冬地として有名な和白干潟があり、南側には松本清張の「点と線」の舞台となった香椎海岸がある。 地域住民らの反対運動により埋立の計画が当初より縮小され和白干潟が残ったのはせめてもの救いだった。
 立花山山塊に降った雨が保水され地下水となって麓の農耕地を潤し、やがては川などを経由して海に至る過程でこの海岸に豊穣な生態系が形成されてきた。 僕が子供の頃に潮干狩りに行ったり海水浴をしたりしていた海岸はこうした自然の恩恵を受けたものだったのだが、当時はそんな自然の営みに思いを馳せることなど当然なく、そうした環境が身近にあることを当たり前だとしか思っていなかった。 今は故郷を遠く離れた都会で暮らしているからこそそうしたものの有難味がよくわかる。
 一方でアイランドシティのような新たな開発の必要性を一概に否定するわけにもいかない。 そうした開発と環境保護という相反するテーマにどう折り合いをつけていくのかは、生態系の頂点に立つ者が負うべき責任なのだろう。
 なにもこんな大袈裟なことを書く気はなかったのだが・・・。

 
立花山・三日月山 [山行記録] – ヤマレコ

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ディスカッション

故郷の海と山」への3件のフィードバック

  1. 山頂から見える海岸線がどんどん遠ざかっているのも少し寂しいものがあります。せめて立花城跡はずっと残してほしい…。
    ちなみに、登山口から山頂までの所用時間はおよそどのくらいでしたでしょうか。

    投稿者: orpheus | 2014年4月20日, 11:55 pm
    • コメントありがとうございます。
      投稿の最後に置いてある[山行記録]に詳細がありますが今回の登山口からは50分ぐらいでした。

      投稿者: Noisy Majority | 2014年4月21日, 11:21 pm
  2. すみません、見落としてしまっておりました…。
    立花山のみならず、三日月山から長谷まで一気に行かれたのですね。こちらも最近長谷のことを書いたばかりなのですが、真上から見渡せる場所があるのをここで初めて知り驚いています。有難うございます!

    投稿者: orpheus | 2014年4月22日, 11:19 pm

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