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Food & Drink

ちょぼ焼き「藍庵」

140419d 今から二十数年前のこと。 深夜、実家の庭に1台の日産サニー・トラック(通称サニトラ)が乗り入れてきた。 何事か?と出てみると玄関先に友人の姿が。 彼はたったいま実家のある熊本から戻ったばかりで、手には小さなレジ袋を持っていた。 中身はフードパック(露店のやきそばが入ってる透明の容器)の中の見慣れない食べ物で、言葉少なに渡されたそれはまだ少しだけ暖かかった。 「高速飛ばしてきたけど熊本からだからもうかなり冷えてるかも(実際は熊本弁)」 それがちょぼ焼きだった。 以前彼から「熊本にちょぼ焼きというのがあり、それは当地でも決してメジャーな食べ物ではなく店も1軒でやってるだけなんだけどとにかく美味いのだ!」と聞かされており、僕が「それは是非一度食べてみたいものだ(実際は博多弁)!」と返したばっかりにたまたまこの夜に彼が律儀にも約束を果たしてくれたのであった。
 後にも先にも僕がちょぼ焼きを食べたのはその一回きり。 その外見は切り分けられたお好み焼きという感じだが、味はまったくの別物で一番の違いは粉物の定番である甘ったるいどろっとしたソースが使われていないことだった。 焼きたてで食べることができなかったせいもあるが、あれから四半世紀の時が過ぎ、ちょぼ焼きの味の記憶は正直ここらで上書きしない限り完全に失われる運命にあった。
 そんな時、くだんの友人が自らちょぼ焼きの店を福岡で始めたというのを風の便りで聞いた。 残念ながら僕には開店の案内状ひとつ寄越してはくれなかったが、学生時代から彼のちょぼ焼き愛の深さは痛いほど知っているだけに、ついに好きが高じて自分で作るようになったのかと思った。 何しろ作りたてのアツアツのちょぼ焼きを知らない僕はその味を知らないに等しい。 これはもう行くしかないのである。
140419b 立花山から三日月山へとミニ縦走し、そのまま稜線を下ってきて長谷ダムの堰堤の登山口に出てきた。 そこからみどりが丘団地まで歩き、箱崎駅を通るバスに乗る。 店は駅から徒歩10分のところ。 暖簾をくぐると人懐っこい笑顔がそこにあった。 会うのは10年ぶりだ。
 昔話もそこそこに早速焼いてもらう。 初心者ということもあって基本の4ちょぼ(生地の大きさ)に野菜のトッピングを選択。 クレープでも作るのかと思わせるような前半、プレス加工のような中盤、そして最後はやはり鉄板焼き職人らしい所作であっという間にちょぼ焼きが完成! 自宅ではお好み焼きを作る担当になっている自分としてはその作る過程も興味深い。 
140419e 初めて食べた焼きたてのちょぼ焼き。 美味かった! それは醤油味だった。 鉄板には油すらひかれないのでさっぱりとした生地はもちもちとしていてその食感がこのちょぼ焼きの命ともいうべきもの。 どことなくナポリのピザに通じる生地だ。 一方でその生地に包まれた具材は魚粉のダシと醤油によって極めて日本的な味付けがなされている。 店主、特製の醤油ダレには相当なこだわりがある一方で、裏メニュー的にウスターソースで仕上げるものもあるという。 また一風変わったメニューとしてサルサソースとチーズで仕上げるメキシカンというトッピングもある。
 ちょぼ焼きと聞いて思い当たる人がいるかも知れない。 実はついこのあいだまでやっていたNHKの朝ドラ「ごちそうさん」のなかで杏が演じる主人公がちょぼ焼きを作るシーンが何度もでてきた。 ただしこのドラマに登場する大阪のちょぼ焼きとこの熊本発のちょぼ焼きは別物と考えた方が良さそうだ。 Wikipediaのちょぼ焼きのページにも熊本の「福田流ちょぼ焼き」が大阪のものとは相違点が多いとの記載がある。 福田流ちょぼ焼きの店は既に閉店し、その店のちょぼ焼きをこよなく愛した友人がその味をこの地で再現しようと頑張っているのである。
 小麦粉を練った生地を伸ばして焼いたり揚げたりした皮や生地の中に具材を巻いたり入れたりする食べ物は世界中に広く分布する。 餃子、クレープ、ブリート、ケバブ、サモサ、ピロシキ・・・挙げればきりがない。 一方日本においては生地で包むというよりお好み焼きやたこ焼きのように生地の中に具材を一体化させるものが主流で、ちょぼ焼きのように包んで食べるものは少数派だが、おやきのようにピロシキそっくりの粉物も存在する。 あらためてこの国の食文化の多様性と奥深さは興味深い。 比較文化粉物学なんて学問があっても不思議ではない。
 さて、ここまで読んでしまった奇特なあなたには是非一度食べに行っていただきたいのである。 ちょぼ焼き。 併せて東京在住の僕もお取り寄せできるセットの開発も是非お願いしたいのである。

 追伸 : ちょぼ焼き「藍庵」は閉店しました(´・ω・`)
140419a

 
藍庵流の醤油お好み焼き ちょぼ焼き・藍庵(アイアン)
ちょぼ焼き – Wikipedia

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