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蹴球狂の詩

極私的ザックジャパン総括 後編

140701a 今回のワールドカップでトラウマになるほど耳にした「自分たちのサッカー」という言葉。 日本にとっての「自分たちのサッカー」、それはやはりイビツァ・オシムの「人もボールも動くサッカー」、いわゆるムービングフットボールの延長線上にあるものだと個人的には思っている。 それは日本人の組織性や勤勉性、敏捷性といった長所を活かすために最も適したスタイルであり、そのひとつの完成形が近年のバルセロナやスペイン代表の「ティキ・タカ」であった。
 ところが今回スペインがオランダに衝撃的な敗戦を喫したことによりメディアは「ティキ・タカの終焉」を喧しく叫んでいる。 スペインの敗戦にはいくつかの要因がある。 高温多湿なブラジルの地で、オフ・ザ・ボールで惜しみなく動き続けることを求められるこのスタイルが選手を消耗させたこと。 5バックの守備的な布陣を敷いてきたオランダがボールを奪った瞬間に襲いかかってくるスペインのファーストディフェンスをかいくぐるため素早く前線にロングボールを入れ、フィニッシュはファン・ペルシーやロッベンといった超人的なフィジカルのストライカーに丸投げするという「ティキ・タカへの対処療法」が見事にハマったこと。 そして何よりも精彩を欠いたシャビ・アロンソ、初戦だけの出場にとどまったシャビに象徴されるようにスペインのティキ・タカ自体が本来のインテンシティを失っていたこと。 頼みの中盤が少なからず機能不全を起こすなか絶対的なストライカーの不在とカシージャスの衰えという前後の問題もそれに輪をかけた。
 オランダが本来の4-3-3を捨て5-2-3を採用したのはスペインへのリスペクトからだと言える。 アタッキングサードに侵入してきたスペインの選手たちに自由なスペースはほとんど残されていなかった。 攻撃はキーパーから、守備はセンターフォワードから始まるトータルフットボールを生んだ国はこのシステムを採用することで前線の3人(ロッベン、スナイデル、ファン・ペルシー)を事実上守備の負担から解放した。 5バックの網にかけたボールを素早く前線にフィードし、攻撃は前の3人に「外注」する。 本来なら批判の対象でしかないそんな糞サッカーも確かな戦略と規格外のスピードと決定力が伴えば世界を驚嘆させるに足る。 「自分たちのサッカー」という理想主義に囚われた日本がその表現以前に「相手と戦う」という競技の本質を見失い、目の前の状況に対処できなかったのとは大きく異なる姿だ。
140701c しかしオランダがスペインを粉砕したからといって彼らが何か新しいものを生み出したわけではないし、スペインのパスサッカーが全否定されたわけでもない。 ファン・ハールは自らのチームに存在するロッベンとファン・ペルシーという稀有なタレントを最大限活かす戦術を立てたに過ぎない。 そしてその戦術は2010年南アフリカ大会の決勝においてもある程度スペインに対して効果をあげていた。 4年前に今回の勝利の端緒はあった。
 そんなオランダも、GLで対戦したオーストラリアが実践した中盤を省略し縦にボールを入れてきたり、両ウイングがスピードにのったドリブルからクロスを入れてくるといったクラシカルなイングランドスタイルのサッカーにはとても苦労していた。 どんな布陣や戦術も全能ではない。 だからこそオランダは様々なオプションを用意していた。
 決勝トーナメントのメキシコ戦、オランダは右MFにフェルハーフ、左MFにカイトを置く伝統の3-4-3でスタート。 しかし後半開始直後にドスサントスにゴールを許しメキシコにリードを奪われると、フェルハーフに代えて前線にデパイを投入、スナイデルを3トップの直下に置き、カイトを右SBの位置に下げ4-3-3の攻撃的布陣にシフト。 するとたちまちロッベンが躍動し、両ウイングが激しく攻め上がるという僕が好きなオランダ本来の姿を今大会初めて見せ始める。 それでも5バックで自陣に引きこもるメキシコ相手に事態が打開できないと見るや疲れの見えたファン・ペルシーに代わってフンテラールを投入し、カイトを右FWのポジションに上げる3-3-4(!)の超攻撃的布陣を敷く。 ファン・ハールは今大会初めて採用された後半30分から3分間の給水タイムをまるでバレーボールの作戦タイムのように活用した。 そしてこの決断が見事に奏功し、オランダは同点に追いつき、ロスタイムでメキシコを地獄に突き落とした。 入るや否やスナイデルの同点ゴールをアシストし、決勝のPKを決めたフンテラール。 ファン・ハールが、ここまで出場機会を与えてこなかった彼のプレーへの飢餓感がここまで爆発的に作用すると見抜いていたとすれば、その人心掌握術は恐るべきものだ。
 試合中の度重なるシステムの変更に耐えうる戦術理解度に加え、この間、左MFから右SB、右FW、最後はまた右SBとめまぐるしくポジションを変えたカイトや、デヨングの負傷退場によってセンターバックからボランチへと移ったブリントなど複数のポジションをこなせる選手が多いのもオランダの強み。 ザックが4年間かかっても3バックをモノにできなかった日本との戦術的柔軟性の差は目を覆わんばかりだ。 日本は一旦相手に試合の主導権を奪われたとき、それを取り戻すための選手交代やシステムの変更といったオプションが皆無だった。 コートジボワール戦とコロンビア戦でそれぞれ後半途中に投入されて試合の流れを180度変えたディディエ・ドログバやハメス・ロドリゲスのような強烈な個性を日本に求めるのは難しいかも知れないが、選手の意識に自動的にスイッチを入れるようなシステムのオプションというのはこうした短期決戦では必要不可欠である。
 正直オランダは試合巧者のメキシコには敵わないと踏んでいたのだが、ファン・ハールの巧みなベンチワークで徐々に試合の主導権を失ったメキシコは自陣に引きこもり、自ら終了間際の逆転劇を呼び込んでしまった。 ひるがえってザッケローニのベンチワークを振り返ると、やはりすべてが後手に回った印象は否めない。 GLの3試合を通して見てもザックが切った選手交代のカードで有効に作用したものは残念ながらひとつもなかった。 このあたりは控え選手の駒、監督の采配ともに明らかに見劣りした。
 本編でまとめるところ、予想外のオランダの勝利で長くなってしまった。 残りは番外編に書くことにする。

 
極私的ザックジャパン総括 前編
極私的ザックジャパン総括 番外編

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